〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第94章 花盗人と籠の白百合《中編》❀伊達政宗❀
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「え、書簡を読んでるだけ?」
その後、なんとか美依をなだめ、恒例の夜の茶会を始めた俺達。
美依の淹れた抹茶と、俺が持ってきた豆大福と。
それらを囲んで、相変わらずの世間話を繰り返していたのだが……
美依の話を聞き、俺は思わず目を見開いて、美依にオウム返しで聞き返した。
『お前の事を教えろよ』
そう美依に尋ねれば、美依は日々の生活の話を語ってくれたのだけど……
こんなに綺麗な着物があっても着ない。
化粧道具があっても、化粧すらしない。
毎日毎日、文机に積み上がった本を読み、生活していると言うではないか。
「この着物や化粧道具、香などは、信長様が私に贈ってくださったものなの。私の心を掴むために」
「つまり信長に応える気がないから使わない」
「うん、信長様は私が困らないように何でも与えてくれる。でも…それは自由以外は」
「……」
美依はぽつりとそう言い……
窓から見える真っ暗な空の方に視線を移した。
その瞳の虚ろなこと。
まるで光の入ってない硝子玉みたいな黒い瞳は、その月も星空も……
何も移してないように見えて、思わず俺は息を飲む。
「信長様は、私を大切にしてくださる。だから、余計な事は知らなくていい、自分の方を向くまではこのままだと…私をこの部屋に閉じ込めるの。でもね、私はあの方を好きにはなれないから…きっとずっと、一生このままなんだ。どんなにあの外の世界が気になっても。それは一生知らずに終わってしまう」
(美依……)
その掠れた声。
全てを諦めたような、その雰囲気は……
先程、豆大福に瞳をきらきらとさせていた美依とは別人のように思えた。
信長の女になる。
そうすれば、籠の鳥でなくなると解っていても……
それが出来ないから、一生このままでいると。
美依は全てを諦めてしまったのだろうか。
美依の人生は美依のものなのに。
────その人生そのものを、
美依は諦めてしまったのか?