〖イケメン戦国〗新章 燃ゆる華恋の乱❀百華繚乱伝❀
第85章 純愛イノセンス《中編》❀徳川家康❀
『美依が幼児化しただと?』
『はい、信長様。原因は解りませんが、確かに幼児化しました。それは美依本人に間違いありません。本人は十二歳と言っています』
『身体的なものだけか?』
『いえ…本人の話を聞いてみると、多分思考面や精神的にも十二歳まで戻ってしまっているようでした。現に、俺の事も解っていない』
『たいむすりっぷしてくる遥か前に戻ったという意味だな?』
『はい、その事も美依に訪ねたら…たいむすりっぷに関しては、本人解っているようでした。十二歳当時にそんな記憶はないはずですが、不思議な事に』
『で、どうするのだ、家康』
『とりあえず俺の御殿で様子を見ます。一応俺の妻でもあるので』
『くくっ…愉快な事になったな』
『はぁ…俺は頭が痛いです』
「あ、家康さま!おかえりなさーい!」
信長様に美依の報告をし、御殿へ帰ってきてみると、幼い美依は庭先で子鹿のワサビとじゃれあっていた。
御殿内であれば、好きに過ごしていいと言っておいたから。
ワサビも随分、幼い美依に慣れている。
やはり何かを感じ取っているのだろうか?
それにしても…
屈託のない笑顔は幼いけれど、やはり美依で。
それを見ていたら、何故かとてもやるせなくなって、俺は深いため息をついた。
「家康さまー、どうしたの?」
「いや…なんでもないよ」
近づいて、頭をぽんと撫でると、美依はきらきらした瞳で俺を見上げ、にこっと笑った。
なんだか…十二歳にしては幼い気がする。
いや、美依の時代の子なら、こんなものなのかもしれないけれど…
これが美依の幼い頃なのか、としみじみ思っていると、美依が何かに気づいたように『あ!』と大きな声を上げた。
「家康さまにお客様来てたよ」
「客?誰、名前は?」
「まーくんだって」
「……誰だよ、それ」
「かっこいいお兄さんだった!スイカ持ってまた来るって言ってたよ」
(まーくん…ってもしかして)
そんなふざけた名前を名乗るのは、一人しかいない。
俺の記憶の中では。
そのまま庭先で美依と待っていると…
その『噂のまーくん』がひょっこり顔を出した。