第10章 帆風
「泣きそうな顔してるぞ。おいで。」
両手を広げて、そういう木兎さんに思わず駆け寄ると、ふわっと抱きしめられる。
きっと…今までで一番優しく抱きしめられている。
「木兎さん…私…、私…。」
「大丈夫だから、落ち着いて。俺が和奏の望みなら何でも叶えてやるから。たとえ、ツッキーと仲直りしたいって望みだって、それを和奏が本気で望んでいるなら叶えてやるから。」
耳元に降ってくる木兎さんの落ち着いた声を聞くと、本当に何でも大丈夫な気がしてくる。
そして、木兎さんは何の話か既にお見通しなんだ。
私がこのお願いをするのは、木兎さんにとっては一番酷かもしれない。
でも…木兎さん以外に頼れる人が居ない。
「私、聞いたんです。蛍が…何で他の女の子達からの告白を丁寧に対応してたのかって…」
もう夕方も終わって、学校ごとに入浴が回ってくる時間で、
木兎さんの梟谷は最初の順番だったのか、胸元から石鹸の香りがしている。
今日一日、何とも言えない息苦しさの中で過ごしていたので、木兎さんの香りと優しさに自然と身体の力が抜けていくのがわかる。
それから、結構な時間を掛けて木兎さんに話した。
そもそも、何で蛍とギクシャクしてしまったのか、
どれくらい酷いことを言ったのか、
そして、全て蛍の私を思っての行動だった事。
あの賑やかな木兎さんが、珍しく静かに話を聞いてくれていた。