第10章 帆風
「わ…皐月さん、ごめん!泣かないで。皐月さんの事泣かせたって、ツッキーにバレたら、俺殺されちゃうよ。」
山口君が慌てた様子で言ってくる。
「ごめんなさい。私…ごめんなさい。どうしよう。」
「大丈夫だから、泣き止んで。」
「本当にごめん。」
涙を慌てて止めると、山口君がこちらを覗き込んで笑う。
「俺はね、ツッキーと皐月さんが付き合えて、本当に良かったと思ってるよ。ツッキーも、皐月さんといる時はいつもより素直だし、普段は見せないような顔で笑うこともあるんだ。だから、仲直り出来るといいね。」
山口君がニッと笑う。
違うんだ。
悪趣味って言ったことも最悪だけど…、
蛍が離れていった事が寂しくて、木兎さんに甘えてしまった事…どうしたらいいんだろう。
そろそろ練習行こうか。
そう言って歩き出した山口君の後ろを追いかけながら、ドクドクと自分の心臓の音がヤケに大きく聞こえている。
ブッとポケットでバイブが鳴る。
取り出せば予想した通り、木兎さんからのメッセージを受信している。
[和奏ー?どこ行ったー?体育館に姿が見えないから心配してるぞー。早く来ないと、会った時に思わず感動で抱きしめちゃうかも。]
どうしよう。
そう思った時に、俺に相談しろと言った木兎さんの言葉を思い出す。
あの時は何ふざけた事を言っているんだろうと思ったけど…。
他の人に今の状況を正直に話して相談する事なんて出来ない。
木兎さんしか居ないんだ。
[木兎さん…助けてください。]
すがるような気持ちで短いメッセージを送る。
[当たり前だろ。どうした?]
すぐに返ってきたメッセージを見た瞬間に、息が止まりそうなほどにキリキリとしていた心が、ふっと軽くなるのを感じた。