第10章 帆風
それから続々と起床したマネさん達と、ワイワイ言いながら朝食の準備をする。
何だか昨日まで参加するのが辛かったマネさん達との会話も、今日は楽しく感じている。
「おはよーっす。」
朝食時間になるとぞろぞろと選手の皆さんが食堂に入ってくる。
長年の癖で、人混みの中でも蛍をすぐに見つけると、ちょうど向こうもこちらを見て、バッチリと目が合う。
…気まずい。
まだ蛍がこちらを見ていることはわかったけど、思わず目を逸らして、目の前の味噌汁がたっぷり入った鍋をかき回す。
ブッとポケットで短く携帯が震えた。
蛍…?
あっ、違う。木兎さんだ…。
[なーに、朝からツッキーと見つめあってんの?妬けるんだけどー。ってか、メッセージ返してよ。]
パッと木兎さんを探せば、離れた席からこちらをニコニコ見ている。
何だか…木兎さんが彼氏なんじゃ…なんて、勘違いしそうになっている自分の頬を小さく叩いて、目の前の味噌汁を配る事に集中する事にする。
重いような、浮かれたような、罪悪感のような、開放感のような…。
もう、自分でも訳がわからない。
「あの…皐月さん。朝食終わったら少し時間もらえる?」
黙々と味噌汁をついでいると突然、目の前でそんな事を言われたので、慌てて顔を上げる。
「あっ…山口君…。おはよう。」
「お…おはよう。なんか、すごい気迫で味噌汁ついでるね。後で少し時間貰える?」
すごい気迫…って…。
「あっ、うん。朝食終わったら…だよね。」
「じゃあ、場所は後で連絡するよ。」
何も考えずに頷いてしまったけど…、山口君と2人で話した事なんて、今までないよね。
小学校からの付き合いなのに…。
「あっ…。」
目の前に味噌汁を待っている選手達が行列になっているのを見て、また慌てて仕事に戻った。