第9章 波風
「私…あの日、母と買い物中に…偶然見てしまって。月島君が告白されている所を…。それで…。」
「和奏に…言ったの?」
谷地さんを見れば、少し怯んだ様子でこちらを見返した。
「す…すいません!和奏ちゃん、以前から月島君がガラにもなく告白に丁寧に対応していると、何だか心配されてて…。あっ、ガラにもなくとか言ってすいません!!」
見当違いなところに謝る谷地さん。
あの日…和奏は少し早めに和奏の家を出ようとした僕を引き止めた。
和奏も僕と同じように、あまり一緒に過ごすことが出来ない合宿の前に…少しでも一緒に居たいと思ってくれていたのだ。
それが…僕が早く家を出た理由が、他の女の子と会う事だったと知った…。
谷地さんがいる事も忘れて頭を抱える。
今なら、和奏がどんな気持ちだったか、わかる気がする。
でも…まだ、1つだけわからない事がある。
「王…影山に連絡したのは…?」
僕が谷地さんの意見をアテにしているなんて…。
自分でも意外だ。
「和奏ちゃんは…たまたま会ったのだと言っていました。連絡なんてしていないんです!同じ目的地に行くのに、わざわざ別々に行くのも変だから一緒に来ただけだと…そう言っていました。私は…和奏ちゃんは嘘は言っていないと思います。」
和奏が嘘をつかない?
違う…和奏は嘘なんかつけないんだよ。
そんな事、谷地さんに言われなくても、僕が一番よく知ってる。
はーっと、自分に向けて深いため息をついた。