第9章 波風
自主練も、夕食や入浴なども全て終わった夜になって、音駒の部屋を訪ねる。
こっちの部屋も、烏野と変わらず煩い。
「お…やっと来たか。」
僕が来るのがわかってた様子で黒尾さんが部屋から出て来る。
パタンと部屋の戸が閉まると、廊下が一気に暗くなる。
「これ…ありがとうございました。」
日中に借りたタオルを差し出す。
あの後、谷地さんが大慌てで洗ってくれて、夕方までに乾いたのだ。
「このくらい別にいいけどさ…大丈夫か?」
黒尾さんには…いつも隠し事なんて出来ない。
出来てるつもりでも、結局全部バレているんだ。
「何だか…思い込みとか、勘違いとか…重なってて…お互いに。」
ふーん。と、自分で聞いたくせに黒尾さんは興味の無さそうだ。
そんな感じだから…僕も他の人には言えないような事を黒尾さんには話してしまうのかもしれない。
「まぁ、それに気付けてるなら、思ってたよりマシだな。」
どんだけ…グダグダだと思われてるんだろう。
まぁ、体育館でマネージャーを泣かせたくらいだ。
しかも八つ当たりで…。
「なんで…和奏相手だと、こんなに空回りばっかりするんでしょうか。」
「そりゃ、簡単だ。スパイク空振りする時と一緒。力が入りすぎてるか、セッターの動きが見えてねぇんだよ。力抜けよ。」
バレーじゃ絶対しないようなミス…。
力み過ぎてて…相手が見えていない…。
「なんか…ありがとうございます。」
「素直で気持ち悪りぃな。ありがとうのついでに、もう一つ忠告。木兎には気をつけろよ。」
急に真顔になる黒尾さんにつられて、こちらまで表情がこわばる。
「え…木兎さん?」
「あいつ…今回はマジだから。」
確かに…木兎さんはいつも和奏に言い寄ってはいたけど…。
そこまで心配する必要ない…と言いかけてるが、黒尾さんの表情を再確認して言葉を飲み込んだ。
急に背中でザワザワとするような嫌な気配がした。