第9章 波風
「ちょ…谷地さん!?説明が全く足りてないんだけど、緊急って何?」
背中…と言うよりは、高さ的に腰の辺りをぐいぐいと押しながら谷地さんが僕を体育館の外へと連れて行く。
本当に嫌なら、全然動かずに抵抗も出来るんだけど…きっと菅原さんの言う通り、和奏関連だろうから、大人しくついて行く事にする。
体育館を抜けると、すぐに和奏が視界に入る。
ほら、やっぱり。
きっと和奏も僕と話し合いたいって思ってたんだ。
ちょっと口元が緩んでしまう。
「キャプテンや監督には私から説明します!だから、今すぐに…話し合って下さい!では、私は失礼します!」
「あ…の、練習大丈夫…かな?」
さっきの様子で、谷地さんが気の利いた言い訳をしてくれるとは思えない。
きっと後で怒られるんだろう…。
でも…。
心配そうにこちらを覗き込む和奏の様子が可愛い過ぎて、先ほど同様に口元が緩んでくるのを慌てて引き締める。
「あぁ…うん。少しなら大丈夫だと思うけど。」
「じゃあ、少し…話したいの。昨日の事…。」
ほら、やっぱり。
和奏も僕と同じ考えなんだ。
早く仲直りして、抱きしめたい。
誰も見てないから、キスくらいまでは許されるだろう。