第9章 波風
一晩かけて僕なりに状況を整理した。
まずは和奏が、僕が女子からの告白の呼び出しにいちいち対応していてる事を知っていた。
それも何故か優しく接していると誇張表現された尾ひれまで付いている。
そして、僕から言わせたらあり得ない話だけど…僕が和奏以外の誰かに心移りするんじゃないかと不安になっていた。
そして和奏は僕の話を…王様に相談していた。
しかも、僕や谷地さんに嘘をついてまで2人で会っていた。
そんな、2人にヤキモチ妬いて…あんなに酷い抱き方をした。
酷い抱き方をしたのは…僕が悪い。
和奏を不安な気持ちにさせた事も僕に責任があるだろう。
でも、やっぱり王様との事だけは…何度考えても和奏が悪い。
もう一度話し合えば、和奏に謝る事も、許す事も出来るだろうか。
昨日までより少し解決の糸口が見えて来た事で、今日は何だかバレーにも集中出来てる気がする。
僕、こんなに単純な奴だったっけ?
「つ…つっきしま君!!」
ちょうど試合が終わってコートを出ると谷地さんが何だか大きな声で僕を呼びつけた。
一瞬、ツッキーと呼ぶ気なのかと身構えてしまった。
噛んだだけか。
「何?谷地さん。そんなに大きな声で呼ばなくても聞こえてるけど?」
「ちょうど試合が終わったところで…良かったです!き…緊急事態です!」
「は?」
緊急事態…?
僕の言葉なんて耳に入ってない様子の谷地さんが、忠告を無視した大声で続ける。
「緊急!?ツッキー、どうしたの?谷地さん、大丈夫?」
「ってか、緊急事態に月島って似合わないな。」
「お前が話すと面倒だから、黙れ日向ボゲェ。」
「やっちゃん…まず、落ち着こうか。緊急事態にはまず深呼吸が…。」
同様にコートを出て来た烏野の面々が谷地さんを、ぐるっと囲んでなだめる。
「皆、一気に話し掛けるとやっちゃん固まっちゃうから。緊急事態で月島ご指名って事は皐月関連だべ?」
菅原さんの一言に、ピタッと大人しくなる一同と、急に動きを取り戻した谷地さん。
「とにかく…月島君をお借りします!必ずお返ししますので!!」
今、何人か「別に返さなくていい」って言ってなかった?
しっかり、聞こえてるんだけど…。