第7章 青嵐
もう…嫌だ。
蛍が完全に見えなくなると、ポロポロと涙が溢れ出して来た。
ちゃんと謝って…蛍も謝ってくれて…それで今まで通り仲直り出来るって…。
いや、仲直りしないと、もうダメになってしまうと思ってたのに。
「無自覚なのもいい加減にしなよ。」
先程の蛍の言葉が頭をよぎる。
無自覚だったから…
警戒心が足りなかったから…
木兎さんとあんなことになってしまったんだ。
蛍に言えないような秘密を持ってしまって…
疑い続ける蛍を相手に…これからずっとバレずにいれる?
仲直り出来た所で…上手くいきっこない。
絶望的な気分で、この場からただ1歩動くことも出来ない。
「わっ!」
唐突に絶望的を切り裂いた声に、文字通り心臓が飛び出る程驚いて振り向く。
「ぼ…くとさん。」
昨日の出来事が夢だったんじゃないかと思わせるくらい、いつも通りの人当たりの良い笑顔で木兎さんがこちらを覗き込んでくる。
「ごめん、驚いた?こんな所で泣いてる子が居たら、驚かしてでも泣き止ませたくなるだろ?今から時間ちょうだい。」
誰もNoとは言えないような笑顔で尋ねられるが、とてもそんな気分ではない。
「すいません。今は…ちょっと。」
「和奏に拒否権はないぞ?」
木兎さんの方を見ると、先程と変わらぬ笑顔のままだ。
この様子は…冗談でなく本当に拒否権がないのだろう。
昨日の一連の出来事を思い出す。
「わかりました。」
満足そうに微笑む木兎さんの背中を、重い足取りで追い掛けた。