第5章 黒風
「あっち側の校舎の隅にさ、ひっそり自動販売機があって、超穴場なの。散歩がてらそこまで歩こう!」
そう言って前を歩く木兎さん。
こちらを振り返る事は無いけれど、私に合わせたペースで歩いてくれている。
本当に私にも木兎さんくらいに感じ取る能力が備わっていれば良かったのに。
周りの空気が読めるとは言われるけど…それとは全く別の能力だ。
人の心の核心を見抜く力。
「なんで、彼氏相手にいつも遠慮してんの?」
だから、こういう一見無神経にしか見えない事も言ってしまうのだろうか。
無神経で発言している訳ではないとわかっているが、
いきなりそこまで核心を突いた指摘をされると面白くない。
「なんでそんな事言うんですか?」
ワザと少し語調を強めて言う。
いつもの木兎さんなら、これで不味いことを言ったのだと気付いて引き下がってくれる。
「だって、そうだろ?皐月ちゃんっていつもツッキーに遠慮してさ、顔色伺ってんじゃん。」
笑顔でそう言ってくる木兎さんに、いつも通りは通用しないと言われている気がして、もう一度強く返す。
「そんな事ありません!」
「じゃあ、わがままもちゃんと言えてる?」
木兎さんの一言、一言が、私の心を抉るように真っ直ぐ突き刺さってくる。
「言えてます!」
「ふーん。じゃあ、隠し事もせずに何でも打ち明けられる?」
これ以上、私が必死に目を背けて来た事実を目の前に晒さないで欲しい。
蛍とはもうダメかもしれないという事実。
「隠し事なんてありません。」
「本当に?」
気付いてしまうと、戻れなくなるから。
「本当です!!」
「ふーん。じゃあ、コレも?」
急に身体を引かれ視界が反転したと思ったら、声を出す間もなく、驚く程近くに木兎さんの顔があった。
クチャクチャと響く水音を聞くまで、何が起こっているのかわからなかった。
私…木兎さんにキスされてる…!?
ダメ…こんなところ蛍に見られたら…。
先程の蛍との行為を思い出し、背筋が冷えるのを感じた。
やだ…。
必死に抵抗するが、ビクともしない木兎さん。
しかも…なに…これ?
先程までの行為で、身体にほてりが残っていたのか…それにしても…。