第5章 黒風
蛍は…勘違いをしている。
きっと、宮城を出発する前に私と影山くんに何かあったと思っているんだ。
何も…ないのに。
そう思って、ふいにあの時影山くんに抱きしめられたいと思った自分を思い出した。
…私、最悪だ。
食堂に着くと、潔子先輩が言った通り、一人分の夕食がラップに掛けて置いてある。
このままにしておく訳にもいかないので、申し訳ないと思いながらも、お皿の夕食達にはもれなくゴミ箱に移動してもらう。
ジャージだから必要ないかも…と思いつつも、食堂に置いて置いた自分のエプロンを着用して、お皿洗いをする。
冷たい水と一緒に全て流してしまいたい。
最後のお皿を洗い終わった時に、入り口の方でガタッと音がした。
蛍だったら…って思ってビクっとしてしまう。
「あれ…木兎さん、お風呂上がりですか?」
入り口に木兎さんの姿を見つけ、安堵している自分に気付く。
私…今、蛍だったら嫌だと思ってた…。
「おう。皐月ちゃんは?こんな時間に1人で食堂で何してんの?」
ホクホクと湯気が見えそうなくらいしっかりお風呂上がりの木兎さん。
何か食べ物でも探しに来たのだろうか?
さっきのご飯、捨てなきゃ良かった…。
ここに居る理由を何か言わないと、部屋まで送るとか言ってくれそうな雰囲気に、慌てて嘘をつく。
まだ、明るいあの部屋には戻りたくない。
「私は明日の朝食の準備を…少しやっておこうかと思って。まだ眠くもないですし。」
「じゃあ、何か飲み物でも買いに行かない?こんな所に居るより、外の方が気が晴れるだろ。」
迷いのない木兎さんの言葉にビックリして顔を上げる。
なんで…わかるんだろう。
私が落ち込んでるって。
「木兎さんは…本当に侮れないですね。蛍が心許しているのも納得です。」
こういう直感の鋭い人に憧れる。
私がこれくらい感じ取れれば…蛍とこんな事にならないのに。