第5章 黒風
「和奏、今時間もらえる?」
抑揚のない蛍の声。
本当に怒ってるんだ、
「あっ、うん。私もね…蛍と話したいなって思ってて…。」
言い終わる前に私の右手を掴んで蛍が歩き出す。
「蛍…どこ行くの?」
なんで…怒ってるの?
なんで…こっち、見てくれないの?
「男子部屋。この時間帯なら、みんな自主練に夢中で部屋には誰も戻って来ないから。」
振り返る事なく私の手を引きながら蛍が言う。
確かに、うちの部のメンバーなら夕食の時間ギリギリまで体育館に残っているだろう…。
でも…。
「でも、勝手に入って怒られないかな?それに…もし途中で誰か戻って来たら?」
何だか、今の蛍と2人っきりになるのが怖い。
話し合いなら外でも、出来るし…。
「ねぇ、さっきから煩いんだけど。誰か戻って来たら、見せつけてやればいいよ。それとも和奏は外でヤリたいの?他校生にも見られたいとか…?」
やっと、こちらを振り返る蛍の顔に絶望を感じる。
蛍は私と話し合う気なんて無いんだ。
「ちが…。そういう意味じゃない!私は蛍とちゃんと話し合いたくて。」
聞いて欲しい事がある。
蛍が好きだって事。
他の人に揺らぐ事なんてないって事。
そして…少し不安だと思っている事。