第5章 黒風
当たり前の話だけど…練習中は蛍とあまり話せなかった。
何だか気まずい雰囲気のまま、自主練の時間になった。
マネージャーはこの時間に夕食の準備があるのだけど、
仁花ちゃんも加わり、マネージャーが増えたので、今回の合宿では当番制だ。
「皐月ちゃん、部屋で一緒にお喋りしようよ。」
私と同じで、夕食の準備を免れた梟谷のマネージャーさん達が声を掛けてくれる。
「あっ…私は…。」
私は蛍と喋りたい。
自主練をしているかもしれないが、様子を見に行こうと思っていた。
「あっ、わかった!彼氏と約束があるんでしょ?あの烏野の眼鏡の子!」
「あ…いや…」
約束があるわけではないんだけど…。
「そうなんです。ちょっと僕が用事があって…皐月をお借りしてもいいですか?」
え?
予想外な声の乱入に慌てて振り向くと、ニッコリと蛍が笑っていた。
いや…何だか、凄く怒ってる。
笑顔も顔に貼り付けただけのニセモノだ…。
「きゃー、お迎え!?どうぞ、どうぞ!何だったら夜も遅くても誤魔化しとくよー!」
「羨ましいんですけどー。あとで話聞かせてもらうからね!」
そんな蛍のオーラに怯えているうちに、梟谷のマネージャーさん達が盛り上がりながら去って行ってしまう。
あっという間に蛍と2人っきりだ。