第1章 小風
左手をプラプラしながら影山くんがこちらへ歩いてくる。
影山くんとは蛍と付き合う前に2ヶ月だけ付き合っていた事がある。
蛍と向き合いたいと自分勝手な別れの理由を持ち出した私に文句も言わなかった。
それどころか、マネージャーの仕事は続けてくれと言ってくれた。
その言葉通り、影山くんは選手とマネージャーとして、なんの違和感もなく接してくれている。
「あっ、取れちゃったんだね。ここ座ってくれる?」
テーピング用のテープが入った箱を持ってくる。
「ちょっと王様…、それくらい自分で直しなよ。」
コートの脇に水分補給をしにきた蛍が言う。
また始まった。という様子でバレー部の皆さんがこちらに目を向けた。
「あ?マネージャーにテーピング頼んで何が悪いんだよ。」
「わざわざ和奏に頼む必要ないでしょ。谷地さんだって、そこにいるんだから。」
「皐月の方がテーピング上手いだろうが。」
「ひー、テーピング下手ですいません!!」
仁花ちゃんが真っ青になってペコペコしている。
カオスだ…。
「蛍!水分補給終わったら、早くコートに戻って!」
仁花ちゃんまで震え上がらせて…と睨みつけてやる。
「あの、和奏ちゃん。良かったら私が影山君のテーピングを…。下手ですけど。」
「あー、いいのいいの。蛍なんて無視して。影山くん、手出して。」
「うす。」
仁花ちゃんの提案を辞退して、影山くんのテーピングを始める。
蛍が素直になったのは嬉しい事だけど…ヤキモチが露骨になり過ぎて、部活中などはヒヤヒヤする事が多い。
特に影山くんに対しては…異常なほど過敏だ。
それに関しては…影山くんと付き合っていた私にも負い目があり、どう対処していいのか、わからずにいる。