第4章 順風
はーっと黒尾君が溜息をつく。
「わざわざ人の女に手を出す必要ないだろ?それとも、そういう趣味なんですかー?」
なっ…心外だ。
「違うぞ!別に人の彼女だから狙ってる訳じゃなくて、皐月ちゃんだから欲しいに決まってるだろ!」
まぁ、確かに障害があって燃える!とか思ってたけど。
でも、皐月ちゃんが相手じゃないと意味がない。
「どうせ、本気じゃないんだろ?とにかく、練習始めんぞ。」
黒尾君が体育館内に去っていく。
黒尾君にはわからないんだ。
俺がどれだけ本気か。
皐月ちゃんに初めて会ったのも合宿の時。
まぁ、普通に可愛い子だと思った。
メガネの長身とやたら仲良いから、部活内で付き合ってるとか青春か!って心の中でツッこんでたりもしたんだけど。
実際のところ付き合ってないらしいって、その日の夜にはうちのチームの奴らが盛り上がってた。
俺も一緒に盛り上がってたっけな?
あわよくば合宿中に喰っちまおうって。
いつからだ?
本気になったのは。
「木兎さんはそんな冗談ばっかり言ってなければ完璧なのに…残念過ぎますよ!」
言っている内容は聞き捨てならないが、
あの時の皐月ちゃんの笑顔が心に焼き付いて離れなくなった。
俺の口説き文句なんて、全部冗談だって決めつけて、笑い飛ばしちゃうくせに、
ツッキーを見るときにふと見せる恋する表情も、俺がハマっていく原因だった。
初めての合宿の時、自主練をしないツッキーを心配そうに見守ってた横顔とか。
俺と黒尾君で、ツッキーを自主練に巻き込んだ時の嬉しそうな顔とか。
何度目かの合宿の時に、ツッキーの事諦めきれてないくせに、他の奴と付き合ってる時の寂しそうな顔とか。
一人占めしたくなった。