第3章 恒風
結局バスでは一睡も出来なかった。
座席からヒョコッとのぞく蛍の頭を見ていると、
少し頭の中が整理出来てきた気がして、
考えるのをやめられずにいるとバスは東京へ着いていた。
不満な事。
蛍がモテる事。
蛍が女の子に優しく対応する事。
何で蛍は…私の事を信じてくれないんだろう?
私が好きなのは蛍だけで…
今更、影山くんとどうこうなんて…あり得ないのに。
でも…蛍には信じて欲しいと求めるのに…
蛍が女の子に呼び出されているだけで、
心がささくれ立つ私は、酷く自分勝手だ。
バスから荷物を降ろしてから、
潔子先輩や仁花ちゃんと、他校のマネージャーさん達に挨拶に行く。
「烏野のマネージャー3人になったんだー。」
「谷地仁花と申します!足を引っ張らないように一生懸命務める所存です!」
「あはは。力抜いてー。よろしくねー。」
皆がワイワイと盛り上がっているのを、何だか上の空で眺めていた。
「皐月ちゃーん。久しぶりでも可愛いー!まだセッター君と付き合ってんのー?」
ギュッと後ろから急に抱きしめられる。
木兎さんだ。
この人はいつも軽口を叩いたり…
スキンシップも凄くて…
どちらかと言うと苦手なタイプだ。
でも、この人には感謝している事がある。
いまいちバレーに熱くなりきれなかった蛍を巻き込んでくれた事だ。
普段は軽いが、何かしっかりとした芯のような物を持っていて、
だから蛍も木兎さんの言う事は、ブツブツと文句を言いながらも聞くのだろう。
軽くなければ…非の打ち所がないのに…。
あっ、仁花ちゃんが木兎さんの毒牙にかかったら大変だから、後で言っておかないと!