第3章 恒風
「影山くん、この事…泣いてた事も…誰にも言わないでね。」
昔も一度こんな約束をしたなぁ。
影山くんは覚えているだろうか。
「言うか。ボゲェ。」
あの時と同じ返答だった。
学校に着くと、既に蛍も仁花ちゃんも到着していて、
信じられないと言った顔で、私と影山くんを見ていた。
マズイ…とは思ったけど、
とっさに言い訳も思い浮かばないので、
蛍には近寄らずに潔子先輩の元へ向かう。
真っ青な顔した仁花ちゃんも寄ってきた。
「和奏ちゃ…ん。何で影山くんと…?つ…月島君が怒りで大変な事に…。」
蛍の近くで不機嫌オーラにあてられたのか、
喋り方もしどろもどろになっている。
「いや…影山くんはたまたま途中で会って…同じ目的地なのに、別々に来るのも変だから…」
そんな言い訳が蛍に通じるとは思っていない。
どうしようか…どう思っているうちに、キャプテンからバスに乗るように促される。
「和奏ちゃん、月島の隣に座ってもいいよ。」
潔子先輩がこちらを心配げに覗き込んでくる。
本当に…素晴らしい先輩だ。
「いえ…少し…私も頭を冷やしたいので。」
そう答える私にも、にっこりと微笑みかけてくれる。
ギュッと右手に温かさを感じて、そちらを向くと
仁花ちゃんが手を握ってこちらを覗き込んでる。
「和奏ちゃん…もしかして、私のせいでしょうか?私が余計な事に言ったせいで…。」
違うよ。そう伝えたいけど言葉が出ないから、仁花ちゃんの手をギュッと握り返した。
「和奏ちゃん…大丈夫です!私は経験値もないので…ろくなアドバイス出来ませんが、あんなに仲の良い和奏ちゃんと月島君が喧嘩するはずありません!」
何だか、色んな感情がごちゃっとなって、訳もわからず涙が溢れそうになった。
「ありがとう、仁花ちゃん」
バスに乗り込んで席に座っても、
仁花ちゃんはずっと手を繋いでてくれた。