第3章 恒風
「和奏は僕と付き合っているんです。木兎さんは大人しく回ってこない順番を待ってて下さい。」
木兎さんの腕から強引に引っ張られ、
慣れ親しんだ蛍の胸に引き寄せられる。
「結局、ツッキーが取り戻したのか!俺のアドバイス通りだな。って事は、次こそ俺の番か!」
「順番…一生回ってきませんけどね。」
蛍と木兎さんがワイワイと言い合いを続けているが、
私はそれどころじゃない。
蛍と何も話せていないからだ。
私が気まずいのと同じくらい、蛍も気まずいはず。
「でも、ツッキーと皐月ちゃん、上手く行ってないんだろ?」
表面だけ取り繕っていた蛍が、
木兎さんの一言で固まったのを感じた。
「…どこが上手く行ってないって言うんですか…?」
蛍の声がワントーン低くなる。
あっ…怒ってる。
今会ったところの人にもわかるくらい私達はギクシャクしているのだろうか。
木兎さんは勘のいい人なので、
他の人にはわからないようなところを感じ取ったのかもしれない。
「まぁ、認めたくないなら、それでもいいけど。合宿終わるまでに皐月ちゃんの事、絶対俺の物にするから!」
蛍が睨むのなんて無視して、台風が通過するような勢いで去って行く木兎さん。
蛍もいちいちそんなにムキにならなくても…
木兎さんの言う事を間に受ける必要なんてないのに。
可愛いとか、好きとか、ハグとか、
一緒に寝ようとか、
俺の物になれとか…
そんなの全部木兎さんのいつもの冗談なのに。
「集合ー!」
キャプテンの呼び声に、蛍が去っていく。
また一言も話せないままだった。
木兎さんの事、仁花ちゃんに注意するの忘れないようにしなくちゃ。
私も蛍から少し距離を開けつつ集合場所へと駆け出した。