第15章 花風
そんな僕の腕を和奏がぐっと引いたので、体勢を崩して思わず前に向かってバランスを崩した。
僕の胸に和奏の頭がトンっと当たって、後ろから扉の閉まる音が聞こえた。
なんのつもり…?
反射的に…いや、欲望に負けて和奏の背中に手を回して、胸の中に閉じ込める。
「蛍…あのね…。」
腕の中から和奏の耳馴染みのいい声が聞こえてくる。
1週間前まで当たり前のようにここにあったのに…いつの間にか凄く遠く離れてしまった和奏が…ここにいる。
「ねぇ。なんのつもりなの?話があるとか、家に来いとか…僕をからかって遊んでるの?」
なんで、僕のものじゃないのに、僕の腕の中にいるんだよ。
離したくない。
でも、離さないと傷付けてしまう。
心がどちらにも振り切れず、体は全く動かない。
「そんなつもりじゃない…。私…話をしたくて…。」
だろうね。
和奏にはそんなつもりないだろう。
でも…僕は…。
「和奏にそんなつもりが無くても、こんな事されたら期待する。和奏がまだ僕を好きで居てくれるんじゃないかって…惨めな期待。これ以上、僕の事惨めな気分にさせないでよ。」
「蛍、話を聞いて!」
この後に及んで、まだ話とか言うんだね。
和奏の肩を掴んで、自分の身体から引き離す。
「ほら、全力で振り払いなよ。」
慣れた位置にある和奏の顔を上に向かせて、唇を重ねる。