第15章 花風
深夜の静けさの中に、足音が二人分。
決して並んで来る事はない。
少し距離を開けて追い掛けてくる和奏の足音。
少しの距離なのにやたらと長く感じる。
後ろを変に意識しているせいか、背中が凝り固まって来たような気もする。
あと少しで和奏の家が見えてくる。
和奏が声を発したのはそんな時だった。
「あの…蛍!話がしたいの。疲れてるのはわかってるんだけど…でも、どうしても今!今話したいの!」
和奏から話がしたいと言われるのは何度目だろう。
今までなら聞く耳も持たなかった…。
「あいつの話を聞いてやる気はないのか?」
「木兎さんより、俺の方が和奏の事大切に出来る。」
思い出しただけで耳ざわりだ。
王様の言葉に影響されたなんて…ムカつく。
でも、木兎さんより、王様より…僕が一番和奏を大切に出来るに決まっている。
何を逃げ回っていたんだろう。
和奏の為に自分が傷付く事なんて、怖くはないのに…。
「何?とっとと話しなよ。」
くるっと振り返れば、見慣れた目線の高さに和奏がいる。
僕の答えが予想外だったのか、目を大きく見開いてこちらを見上げている。
あぁ、抱きしめたい。
あの間抜けに開かれた口をキスして塞いでしまいたい。
「あの…?本当に?じゃあ、ここじゃ寒いし、家に来てもらってもいい?」
和奏が僕の事を逃すまいと腕を掴んでくる。
本当に…馬鹿なんだね。
せっかく必死に我慢してあげてるのに、そっちから壁を壊してくるなんて。