第15章 花風
「あの…蛍…。」
バスの奥から和奏がととっとこちらに近付いてきた。
外にいないと思ったら…ここに居たんだね。
「何?僕、後ろの方に座りたいから、そこ通して欲しいんだけど。」
あの…あの…と動く様子のない和奏に、思わずため息が漏れる。
「あの…帰りのバス、隣に座っていいかな?」
…は?
「嫌に決まってるけど。」
何のつもりだろう…。
同情でもしてるんだろうか。
「あの…そうだよね。ごめんなさい。」
見るからにしゅんとして道を譲ってくれる和奏。
そんな様子も可愛いとか…本当に酷いよね。
和奏と木兎さんの事を知った時、
この世の終わりみたいな気がした。
ただ、絶望があっただけだった。
でも、1日経っても、2日経っても別にこの世が終わる事はなくて…合宿は当たり前のように続いてて…。
あぁ、現実なのか。
3日目に改めてそんな当たり前の事に気付いた。
不思議と和奏の裏切りに対する怒りは一度だって湧いてこなくて、僕のせいだったんだって結論にしか辿り着けない。
考えれば考えるほど、和奏の事を好きな自分が居て…。
そして、考えるのもやめる事にした。
和奏が何か話し掛けたそうにしていたのは、もちろん気付いているけど…何を話す気かとか…何を考えているのかとか…そう言うことは考えない事にした。
一人で期待してしまう自分が、酷く惨めだから。
だから、今更そんな顔して僕の前に立たないでよ。