第13章 雄風
月島と別れたら…。
影山君の言ったその言葉が、私の中でぐちゃぐちゃになっている事態を整理して…そして、全てが事実なのだと残酷に肯定している。
「けど…、皐月が月島と向き合うって。あいつじゃないとダメなんだって言ったから…だから、俺はお前と別れたんだ。お前、ちゃんと月島と向き合ったのかよ?」
影山君の言葉にゆっくりと顔を持ち上げる。
蛍と向き合う…。
影山君と別れる時に確かに言った。
蛍と向き合いたいって。
その時は確かにそう思っていた。
蛍の気持ちを…知ったら嬉しくなるような事も、知りたくなかったと後悔するような事も、たとえ悲しい気持ちになるような事でも…蛍の気持ちなら全部真正面から受け止めたいって思っていたのに。
いつの間にか、やっと通じ合った好きって気持ちや関係が壊れないように…それだけを大切にして…。
付き合ってるって事実だけを必死に守ろうとしてた。
私は…私達はどれだけの本音を伝えて合って来ただろう。
「私…全く蛍と向き合えてなかった…。」
でも…それも、全て今更だ。
蛍には呆れられて…見放されてしまったんだから。
「じゃあ…向き合えよ!よくわかんねぇけど…向き合うって、彼氏彼女じゃないと出来ないのかよ?別れてたって、向き合えばいいだろ。」
別れてても…例え、彼女になれなくても…私の気持ちを全て伝えたい。
蛍の気持ちを全て知りたい…。
「でも…蛍は私となんか話したくないかも…。」
「泣き言言ってんじゃねぇよ。月島に無視されても、聞いてもらえるまで話し掛ければいいだろ。月島に悪いと思ってんなら、無視されるくらいで怖がってんじゃねぇ。」
そうだ。
私は蛍を酷い方法で傷付けたんだ。
今の蛍の気持ちを考えれば…無視される事くらいどうって事ない。
「影山君…ありがとう。」
そう伝えると、影山君は小さくため息を吐いた。
「皐月が幸せになる為に俺は身を引いたんだ。こんな簡単にダメになってんじゃねぇよ、ボゲェ。」
これには、ありがとうと答えていいのか、ごめんなさいと答えるべきなのかわからず、思わず黙り込んでしまう。
「そろそろ部屋に戻るぞ。女子部屋まで送ってく。」
別に返事など求めていないのだという風に影山君がスタスタと歩き出す。
その背中を追いかけながら、ありがとうと心の中で呟いた。