第12章 夕風
それから、結構長い時間、和奏と木兎さんは抱き合ったまま…何かを話しているようだけど、僕のところからは聞こえない。
これ以上見たくないのに…足が地面に張り付いたように動かなくて。
声を出したいのに…どうやって呼吸をしているかもわからない。
ただ終わる様子のない悪夢を延々と見せられ続けている。
それがどれくらいの時間続いただろう。
笑顔で和奏の唇を奪う木兎さんに、現実に引き戻される。
…やめろ。
…もう…やめてくれ。
何度も唇を重ね合う2人は、幸せなカップルそのもので…。
これ以上、僕に見せないで…。
「ん…ぼく…と…さ…。」
その時、聞こえた和奏の声。
色気のある声で、僕以外の名前を呼ぶ…和奏の声。
このまま見ていたら、2人はもっと先に進むのだろう。
引き寄せられるように、ふらふらと2人に近付く。
「何…してるのさ?」
声を掛ければ、木兎さんが視線だけをこちらに向ける。
離れろよ。
僕の和奏から…。
和奏もこちらに気付いたのか、驚いた表情で青ざめている。
ふーん。
僕の事が怖いの…。
けど、僕には和奏の方が怖いよ。
ここに立っているのもやっとなくらい…。
何で、そんな目でこっちを見るのさ…。
何で、木兎さんの腕の中で、そんな怯えた目で僕を見てるのさ。