第12章 夕風
じゃあ、あの時すぐに問いただせばよかったのか…?
右手の拳を痛いほど握った。
あの時には既に手遅れだったとしたら…?
何で…?
いつから…?
何で…?
たくさん疑問が浮かんで来るのに、その答えを何一つ見つけ出せない。
その日の練習はとにかく早く終わればいいのに…とそう思っていた。
練習さえ終われば、和奏と会って話せるのに…って。
練習終わりにすぐにでも和奏の所に行こうとしたけど、キャプテンに用事を頼まれれば、断るわけにもいかず、すっかり夜遅くなってしまった。
気持ちばかりが焦る。
まだ和奏は起きているだろうか?
そんな事を思いながら女子部屋へ向かう僕の視界を横切って、和奏が走って行った。
会いたかった人物が目の前に居たのだから、すぐに声をかければ良かったんだ。
でも、どこか冷静な部分が、こんな時間に1人でどこへ行くんだ?と僕に疑問を抱かせた。
どんどんと校舎の奥へと進んで行く和奏を追い掛けて、見てしまったものは悪夢みたいな光景だった。
え?木兎さん…?
何で木兎さんが和奏と…?
和奏がたどり着いた先で待ち構えていた木兎さんの姿を確認して、思わず足を止める。
そして、木兎さんが広げた腕の中に、自ら飛び込んで行く和奏を何も出来ずに見ていたんだ。
何で…?
もう一度、拳を握り締める。
信じられない光景で真っ白になりそうな頭を、握った手の痛みで繫ぎ止める。
裏切りへの怒りが込み上がって来るのと一緒に、足元から沼に沈むような絶望感が襲って来る。
何でだよ…和奏。
何でって…今朝、自分でも感じたばかりじゃないか。
木兎さんは危険だって。