第12章 夕風
早く和奏と話したいのに、合宿中だという事実がそれを邪魔する。
いっそメールでも…とか思ったけど、これだけ事態がこじれているんだ。
メールで伝えるのはもっと面倒な事になるんじゃないかと躊躇してしまった。
おまけに食堂に行くと、和奏に思いっきり目を逸らされる始末だ。
正直…朝ご飯どころじゃない。
山口がこちらを心配そうに覗き込んでいるのは気付いているけど…それさえも文句言う気になれないなんて。
ふと、昨晩黒尾さんが言っていた木兎さんの話を思い出す。
「あいつ…今回はマジだから。」
マジって何だよ。
確かに木兎さんは普段から和奏に勝手に抱きついたり、好きだと言ったり…そういう許せない行動はあるけど、和奏だってそんなのに引っかかるほど馬鹿じゃない。
全く相手にしていないのだから、何か起こるはずがないのに。
そう思うのに、昨日の黒尾さんの真剣な顔と、その時感じた不穏な雰囲気が忘れられない。
チラッと木兎さんを見れば、あろう事か木兎さんも和奏を見つめているじゃないか。
和奏は木兎さんなんて無視して、皆に味噌汁を配っているけど…。
木兎さんが和奏を見つめるその瞳に今までになかった何かを感じて、昨日の不穏な感覚を一気に思い出す。
何でかはわからないけど、木兎さんは危険だ。
自分の中で警告音が鳴っていた。