第1章 小さな嘘の始め方
side 皐月 和奏
「あー、悪い。友達来るから、今日はもう帰ってくんない?」
本当に悪いと思っているんだろうか?
視線を一度もこちらに向ける事なく、携帯に向かってそう言う黒尾先輩。
「はーい。また気が向いたら遊んで下さいね!」
私も同じくらい気にしてない風を装い、散らばる衣服を掻き集めて身に付けた。
露出度の高い服も、黒のレースがいやらしい下着も、
全て黒尾先輩の為に用意したものだ。
先輩はそんな事、知らないけど。
見送りもなく玄関の扉を開けたところで、プリンヘッドと鉢合わせになる。
「…孤爪君。」
同じクラスの見慣れた彼の姿に、ホッと胸を撫で下ろす。
良かった。他の女の子じゃなくて。
「皐月…。まだそんな事やってるの?」
心底呆れた様子でこちらを見て来る。
「そんな事じゃありませーん。効果抜群なんですー。」
語尾を伸ばして馬鹿っぽく答える。
孤爪君に呆れられようが、馬鹿にされようが、知ったこっちゃない。
「皐月は逆効果って言葉を知らないんだね。そんなんじゃいつまで経ってもクロの本命になんてなれないと思うけど…。」
じゃ、僕行くから。
と、黒尾先輩の家に消えて行く孤爪君の後ろ姿を見送る。
孤爪君は何もわかっていない。