第12章 ひるひなかの/仁王
昼間の市街だ。建物のあいだに、空白のような時間がある。
街から音というものが一切盗まれてしまったかのような、それは静寂の底だった。強烈な孤独感に理由もなく放られてしまい、おもわず立ち止まる。
「 … 」
立ち竦む。俺は音とともに視界まで奪われたように竦み上がった。そのとき、目のまえの建物に巨大な影がゆっくり過ったように見えた。
ある屋根からにわかに現れたそれは、その建物の壁、街路樹、道路へ垂れていったとおもうと、俺のとなりを横切っていった。
まるで巨大な人影が通過していったかのようだと、俺は高い空を仰ぎ、茫然とおもうのだった。
背後を振り返る。
空に溶けた巨人は目には見えなくとも、俺の背後の街に影を落としながら、ゆっくり、歩いてゆくのだろうか。
「会いに来てくれたな」
包帯のしたに包まれる彼女を見て、俺はそう直感した。
「来てくれたのは雅治でしょ」
「いいや、おまんじゃ」
先日、建物の間隙に空白の時間を感じた昼間、まちの生命にもまた空白があったようだった。
彼女は他中の生徒で、俺は一週間経ってもその悲惨な交通事故をしらなかった。しかしきのう彼女の携帯電話に電話を入れてみて、応答した彼女の母親から事故の発生時刻を聞いたき、俺は腑に落ちる気持を感じたのだった。
そしてじっさいこうして顔を見て、思い出すことになった―――見えないが、確かに人影の主はまちだったのだと。
「たぶん一度死んだのよ。あたし夢を見てた…空を歩く夢」
俺が、「よくも生きてた」というと、病室の窓へまちは視線を移した。包帯の白い身体だが、見ために反した元気そうな声だ。
これからもなん度か、高リスクな手術を繰り返すそうだが、彼女なら切り抜けるだろうと、根拠なくおもう。
一度死んだのなら、しぶといだろう。