【イケシリ】sweet dreams*2【短編集】
第1章 あなたの色に ーアーサーー
自分が何か機嫌を損ねることをしただろうか?
と、アーサーは考えていた。
思い浮かべるのは、最近どうもつれない様子のだ。
アーサーの軽口に、以前はもう少し反応していたはず。
それが怒ったり、呆れたり、恥ずかしがったりという反応だったとしても。
(女の子の日なのかなぁ?
でも俺以外には普通だよね……。)
態度が変わる前と後で、何かいつもと違う会話をしたか考えてみる。
思い出そうと仰向いて目を閉じると、いつも執筆の時に使っている椅子がみしりと音を立てた。
(うーん……。)
思い出せないまま悩んでいた時、ふと膝の上に重たい何かが乗った。
「なーに、可愛い子ちゃん。」
柔らかな毛並みの美しい猫の曲線を撫でてやる。
それはアーサーが可愛がっているペットの猫だ。
甘えて来る彼女の喉をくすぐっているうちに、ふととした会話が蘇った。
……………
それは数日前、アーサーの部屋にがコーヒーを運んできた時のこと。
ちょうど今と同じように甘えてきた愛猫の相手をしていたところだった。
「わ、可愛いネコちゃん!
アーサーが飼ってるの?」
はソーサーをテーブルの上に置きながら尋ねた。
「美人さんでしょ?
俺はいつでもこうやって可愛がってあげたいんだけど、御多分に洩れずこの子もしっかりツンデレちゃんでさ。
俺がかまってあげたいときには、ツンツンしてなかなか触らせてくれないんだよねー。
ま、冷たくされるのもゾクゾクしちゃうからそこもたまらなく好きなんだけどね。」
「へぇ……。」
は膝の上でアーサーに擦り寄る猫と、アーサーの手を見ながらぼうっとしている。
「?どうしたの?」
動きを止めたままのに声をかけるとハッと我に帰り、慌ててお盆を胸に抱えて出て行った。
「へんなのー。」
……………
その時は気がつかなかったけれど、まさかツンデレが好きだという自分の発言が原因なのでは、とアーサーは思い至った。
(なんだ、そういうこと。)
口元が緩んだ。
「どうしてあげようかなぁ。」
くすくす笑いながら、アーサーは夜が更けるのを待った。