第3章 友情か
佐久間さんは来なかった。
あの日、お茶を飲み終え「じゃあ、またね。」と部屋を後にしてから2ヶ月。
季節は変わり、冬を迎えようとしている。
冬が来るという事は、あの日から1年が経つという事だ。
12月24日。
亮太に別れを切り出されたあの日だ。
相変わらず、放課後の屋上でタバコを吸う事が日課になってしまっていた。
物陰に腰を下ろし、スーツのポケットからタバコを取り出す。
1日1本と決めてはいるが、もう2ヶ月も吸い続けているのだから私は立派な愛煙家だろう。
タバコの匂いも、今となっては亮太の匂いでもなんでもない。
私にとってはもう、ただの“放課後の屋上”の匂いになってしまった。
こうして、記憶は上書きされていくのだと思う。
人間とは何て都合の良い生き物なのだろう。
出来る事なら亮太の記憶全てを上書き…いや、完全消去してやりたいくらいだ。