第23章 過去の女
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帰宅すると、玄関にはまたしてもハイブランドのハイヒールが脱ぎ揃えてあった。
佐久間さんは今日も帰りが遅くなると言っていた。
ドアノブを掴む手が震える。
このまま立ち去ろうかとも思ったが、ここは私の家でもるのだから、立ち去るべきは“あの女”だ。
深呼吸をし、感情を整えた。
こんな事で動揺するような女だとは思われたくなかった。
それは…佐久間さんの“現在の恋人”であるという小さなプライドからだ。
リビングのドアを開けると、デミグラスソースの芳醇な香りがした。
それと同時に、ローテーブルの下でうずくまっているコロの姿が見えた。
知らない女が家に出入りし、不快感を持っているのは私だけでは無いようだ。
キッチンから聞こえる物音。
家主の留守中に合鍵で忍び込み、料理を作るなど…恋人にしか許されない行為だと思う。
無言のままリビングを進み、キッチンへと向かう。
白いタートルネックを着た神田美咲は、私がいつも使っているエプロンを身に着けていた。