第22章 スクリーンの中で
「俊二…女性に興味あったんだ?」
ローテーブルに置かれたティッシュへと手を伸ばし、神田美咲はそう言った。
目頭の涙を拭きながら、私の顔をじっと見つめる。
その瞳の大きさに、思わず視線をそらした。
当然ながらテレビ画面を通して見るよりも美しいと思う。
“女性に興味あったんだ?”
それは一体どう意味なのだろうか。
「昔、俊二と付き合ってたの。」
「…え?」
「聞いてない?
この部屋で暮らしていたの。
何も変わってなくて驚いた。
さすがにベッドは買い換えたみたいだけど。」
そう言うと、神田美咲は立ち上がり、ソファーの背もたれに掛けてあったコートと鞄を手に取る。
私は…何と応えれば良いのだろうか。
知りたくなかった佐久間さんの過去。
いや、こうして神田美咲がこの部屋へやって来たという事は…“過去の話”ではないのかもしれない。
「鍵、もらっていくね。
また来るから。」
意味深な笑みを浮かべ、神田美咲はリビングを出て行った。
呆然となり、テーブルの上に置かれたコーヒーをただ眺める事しか出来ない。
“神田美咲”
こんなにも心を乱されたのは初めてだった。
【スクリーンの中で】おわり