第22章 スクリーンの中で
彼女が鞄から取り出した一冊のノート。
それは日記帳だった。
露天風呂に浸かりながら星空を眺め、自動販売機で缶ビールを買い、部屋に戻る。
窓際のベッドで眠る彼女は気持ち良さそうに寝息を立てていた。
部屋の明かりを落とし、小さなテーブルに日記帳を置いて缶ビールの蓋を開ける。
日付は去年の7月2日火曜日から始まっていた。
村瀬先生との出会い、そして恋に落ちていく彼女の心情。
待ち合わせをしたコンビニ、ドライブスルーで買ったコーヒー。
ホテルの名前から、一緒に観たであろう映画まで。
全てを彼女はこの日記帳へ書き記していた。
村瀬先生へと入れ込んでいく様、そしてその苦悩。
村瀬先生が最後に伝えたかった事。
この事を知っていれば…私はもっと村瀬先生と前向きな話し合いが出来たのではないかと思う。
最低な男だとは思うが、それだけではなかったようだ。
今思えば、あの日の村瀬先生の態度はどこか不自然だった。
普段から大人しく、常に相手のペースに合わせようとする男だ。
“最低な高校教師”を演じる事で、村瀬先生は彼女がこれから矢面に立たされる事から守ろうとしたのではないか。
わざと私の神経を逆撫でするような言葉を吐いたのではないか。
そんな事すら思えてしまう。