第17章 秋桜が咲くのは湿った土の匂い
屋上の扉を開けると、彼女はこちらを振り返り大きなため息をついた。
始業式から一週間、彼女はこうして毎日登校していた。
正直、退学の道を選ぶのではないかと思っていた。
村瀬先生との関係が破綻した今、彼女が学校に残る理由は無くなってしまった。
気持ちを新たに勉学に励む…など彼女には難しい事だろう。
村瀬先生との出来事は17歳の彼女にどれほど大きな傷を負わせた事か…。
出来る事なら変わってあげたい。
やはり、私は彼女が可愛くて可愛くて仕方ないのだ。
しかし…私にも大きな悩みがある。
彼女の痛みを引き受けられるほどのキャパシティーなど今の私には無い。
彼女の隣へ行き、スーツのポケットから溶けかけのチョコレートを手渡す。
気の利いた言葉をかけられない私は、こうして彼女の側にいる事しか出来ないのだ。
彼女にとって、それは鬱陶しい事かもしれない。
それでも、私は彼女の側から離れはしない。
きっと…彼女には私しかいないのだから。