第16章 ウラオモテ●
キッチンにバスルーム。
洗面所にトイレ、そして玄関。
佐久間さんと高杉さんが日本に戻って来るのは明日。
お世話になった高杉さんの部屋とも今日でお別れだ。
その前に、せめてもの気持ちでいつもよりも念入りに掃除をした。
少ない荷物とコロを連れ、高杉さんのマンションを後にする。
鍵はリビングのテーブルの上に置いてきた。
もう二度とここへ戻る事はない。
タクシーを拾い、佐久間さんのマンションへと向かう。
『高杉の持っている鍵で部屋に入ってね』
今朝、そう佐久間さんからメッセージが届いた。
鍵を返したり、受け取ったり、また返したり…。
何とも忙しいやり取りを繰り返したが、今日から私はまた、本来戻るべき場所へと戻る。
嬉しさや安堵感。
瞳を閉じると、優しく腕を広げる佐久間さんの笑顔。
しかし、私の心に引っ掛かっていたのは、高杉さんが本当の父親だったという真実だった。