第15章 ひとつだけ
どこまでも続く朱色の空に、思わずため息が漏れた。
電話を切り、海岸沿いの道を歩く。
足どりは軽やかだった。
昨日までの迷いはもうない。
美波が“家出”をしてからの1ヶ月半…。
会いたい気持ちを必死にこらえ、今日まで過ごしてきた。
「親子で過ごす時間をくれないか?」
そう高杉に打ち明けられた時には、罪悪感を感じた。
高杉と美波の関係を…俺は知っていたからだ。
アパートの中庭で倒れたのは偶然だった。
あの日は、近所の公園のベンチで酒を飲んでいた。
心地好い風に吹かれながら、見えもしない星空を眺めていた。
好きな事を仕事にするという事は…決して楽な事ではない。
何事も表裏一体。
光が強ければ闇も深い。
心に迷いが生じた時には必ず“原点”に立ち返った。
ライブハウスの帰り道、金が無かった俺達はよくあの公園で缶ビールを開けた。