第12章 壊れてしまえば
祖父の葬儀には、母の恋人であるあの男も参列していた。
弔問客を見送る私達へそっと一礼をし、帰っていった。
間近で見たのは初めてだった。
目尻の垂れた優しそうな顔立ちの男。
取越法要を終え、私は着替えもせずにすぐさま空港へと向かった。
線香の香りが漂う喪服。
さぞかし好奇の目で見られた事だろう。
しかし、今の私にはどうでも良い事だ。
佐久間さんが留守である事を確認し、マンションへと戻った。
荷物をまとめ、部屋を出る。
鍵はリビングのローテーブルの上に置いてきた。
もちろん、コロも一緒だ。
これから…私は一体どうすれば良いのだろう。
禁忌を犯してしまった。
私には…私達には強い罰が必要だ。
喪服を見にまとい、大きな荷物を肩にかけ、ペット用のキャリーケースを抱えて歩く。
行く場所が無い。
涙で視界が滲んでゆく。
時刻は午後7時。
家路を急ぐ人々の群れに逆らうかのように、あてもなく歩く。
私はこれから…どこへ帰れば良いのだろう。
私には…もう帰る場所が無いのだ。