第11章 目眩がするほど
ベッドに腰かけ、花のように笑う母の横で私を抱く男…。
柔らかそうなウェーブのかかった長い黒髪。
優しく微笑んだ口元からはチラリと八重歯がのぞいている。
畳の上に落ちた写真を拾い上げた。
激しい嘔吐感は、身体が強い拒否反応を起こしているからか。
見なかった事になど出来ない。
再び…写真の中の男を食い入るように見つめた。
嘘であってほしいが、これが現実なのか。
見間違いと思いたいが、私が見間違えるはずなどない。
つい数日前、二人で観たDVD。
あれは確か…1995年の映像だと言っていた。
私が生まれたのは1994年の12月29日。
身体の震えが止まらない。
涙がとめどなく溢れるのは、魂が泣いているからなのか。
生まれたばかりの私を抱き、微笑む26年前の佐久間さん。
私が…
私が愛したのは…実の“父親”だった。
【目眩がするほど】おわり