第11章 目眩がするほど
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「まだ少し仕事が残ってるから。」
マンションまで車で送ってもらい、佐久間さんはそう言って再び仕事へと向かった。
キッチンに立ち、冷蔵庫を開ける。
野菜室には玉ねぎ、人参、じゃがいも。
冷凍庫には帆立も入っている。
「食事…しました?」
「いや、今日はほとんど食べる時間がなくて。」
「何か作っておきましょうか?」
「いいの?」
「はい。」
「じゃあ、カレーがいいな。」
いつものように顔をクシャクシャにさせながら佐久間さんは笑っていた。
冷蔵庫から取り出した野菜を洗う。
「カレーのためなら残りの仕事も頑張れるよ。」
そう言って仕事へ向かった佐久間さんが可愛いらしく思えた。
しかし…佐久間さんはまるで亮太に見せ付けるかのようにキスをした。
あの行動は嫉妬からくるものだったのだろうか…。
もしそうならば、正直嬉しかったりもする。
「メガネ…外さなくてもキスは出来るのに。」
そうポツリとつぶやき、ピューラーで人参の皮を剥く。
日本を代表するロックバンド、the IVYのギタリストである佐久間さん。
そんな佐久間さんが見せた新たな一面。
そのギャップに身悶えするほどの愛しさを感じながら、私はカレーを作り続けた。