第11章 目眩がするほど
車の助手席に乗る。
佐久間さんの視線は、電話を続ける亮太へと向けられているようだった。
「誰?友達?」
「あっ…はい。
大学の同期です。」
「そう。」
一瞬…言葉を詰まらせてしまった事に、佐久間さんは気付いただろうか。
“昔の恋人です。”
ここは正直にそう答えるべきだったか…。
佐久間さんの視線は亮太へと向いたままだ。
このまま車を走らせてはくれないだろうか。
佐久間さんにはあまり私の過去を知られたくはない。
良い思い出ならまだしも、亮太の事など私自身も忘れたい過去だ。
電話を終えた亮太は、車に乗る私の姿をすぐに見つけた。
交わる視線。
私が見知らぬ男性と一緒にいる事に驚いたのか。
亮太は携帯電話を片手に、じっとこちらを見つめている。
「あの、行って下さい…」
そう言いかけた瞬間、突然佐久間さんはこちらの座席へと身を乗り出してきた。
助手席のシートに手を置き、私の顔を見つめている。
一体何をしようというのか…。
あまりにも近いその距離。
思わず頬が熱くなっていくのが分かった。