第10章 まばたき●
ギターソロを弾き終え、客席を指差す佐久間さん。
このまま高杉さんのように目の前をすり抜け、ステージへと戻っていくのだろうとばかり思っていた。
しかし、客席を指差す佐久間さんの視線は私へと向けられていた。
「…えっ!?」
私は思わず小さな悲鳴を上げてしまう。
まさか、この客席の中から私を見つけ出してくれるなどとは思ってもいなかった。
今朝、マンションを出る時に座席を聞かれてはいたが「大体の位置くらいしか分からないからな。」と笑っていた。
そんな佐久間さんは…今、私の目の前にいる。
フフっと佐久間さんはいつものように柔らかな微笑みを浮かべた。
その瞬間、佐久間さんは私の左手を引き寄せ、手の甲にキスをした。
…まるで時間が止まったよう。
悲鳴にも近い歓声を受け、ステージへと戻る佐久間さんの背中を見つめる。
「橘先生、すごい!!!やったじゃん!!!」
そう興奮する愛美先生に手を握り締められた。
【まばたき】●おわり