第10章 まばたき●
リビングに向かうと、高杉さんが満面の笑みを浮かべながら、こちらを向いて立っていた。
その横では、佐久間さんがふふっと腕を組みながら微笑んでいる。
何か嬉しい事でもあったのだろうか。
いつもとは異なる二人の雰囲気に、私は首をかしげる。
「先生、これプレゼント。」
そう言って高杉さんは、背中に隠していた大きな薔薇の花束を手渡してくれた。
驚いた私は思わず言葉を見失ってしまう。
薔薇の強い香りに包まれ、心がわずかに高陽した。
こんな素敵なプレゼントをもらったのは初めてだ。
薔薇の花束を女性に渡す男性など、何て“気取って”いるのだろうと思っていた。
しかし、高杉さんはそんな“気取った”事でさえもサラリとやってのけてしまう魅力があるのだ。
「来る途中にさ、綺麗な花屋があったの。」
そう高杉さんは笑う。
私の感じていたほんの少しの疎外感。
そんなものはもうどこかへ行ってしまった。
全ては私の思い過ごし。
そう思えた。
両手いっぱいに抱えた薔薇の花束をキュッと抱き締める。
「ありがとうございます。」と、私は精一杯の笑顔でお礼を言った。