第10章 まばたき●
「有名な老舗ホテルだね。」
「…そうなんですか?」
「うん。俺の幼なじみもそこで式挙げたよ。」
招待状を眺める私の後ろに立ち、佐久間さんは「懐かしいな。」と微笑む。
そんな佐久間さんに笑顔を返しつつも、頭の中では数少ない同期との思い出を探していた。
「着替えてきますね。」と、私は招待状を手に部屋へと向かう。
そんな私に「もうすぐで高杉が来るから。」と佐久間さんは笑った。
部屋のドアを閉め、ハンガーにコートを掛ける。
スーツを脱ぎ、部屋着へと着替えると、部屋の片隅に置かれた段ボールの中から大学の卒業アルバムを取り出した。
春休みの間に私はアパートを解約し、全ての荷物をこの部屋へと運んできた。
佐久間さんが「好きに使って。」と言ってくれたこの部屋。
眠る時は以前のように佐久間さんの寝室を利用しているめ、この部屋はほとんど物置と化していた。