第10章 まばたき●
「あっ。そういえば手紙届いてたよ。」
「手紙…ですか?」
「そう。前のアパート宛てで。
転送されてきてたよ。」
佐久間さんはそう言うと、テーブルの上に置かれていた手紙を手渡してくれた。
真っ白の厚手の封筒。
慶事用切手に消印が押してある。
差出人を見ると、大学時代の同期の名前が印刷されていた。
「いいね、結婚式。」
「あ…そうですね。」
「もう俺、何年も結婚式出てないな。」
佐久間さんは湯気の立つ鍋をかき混ぜながらそう笑った。
正直…私は友人の結婚式に出席した事は一度も無い。
そもそも招待状が送られてきた事など初めてだ。
昔から親しい友人などいなかったのだから当然か。
差出人の同期の名前も、こうして招待状を受け取るまで忘れていたほどだ。
「場所はどこ?都内?」
私の心境とは裏腹に、佐久間さんはとても楽しそうだ。
「今、開けてみますね。」
封を切り、取り出した招待状には都内の結婚式場の名前が記されてあった。