第9章 甘い嘘●
白い背景に、赤い文字で『the IVY』『strawberry』と書かれている映像が流れる。
すぐに場面は変わり、緑色のクロスがひかれたテーブルの上に置かれた無数の苺が、熟れてドロドロになっていく映像へと続く。
なんてグロテスクなのだろう。
指輪を付けた手が現れ、その苺を握り潰す。
まるで心臓を握られたかのように、苺からは真っ赤な鮮血が流れだした。
しばらくし、ドラムのハイハットから曲は始まった。
その曲は、大きなスケール感のあるミディアムバラードだった。
これが愛美先生の探していた曲なのだろうか。
愛美先生の顔をちらりと見ると、まるでアイドルに夢中になる女子中学生のような表情で画面へと見入っていた。
「橘先生はこの曲好き?」
「私は…ドラマの主題歌しか聴いた事がなくて…。」
「あぁ、Insomniaね。
私はこの曲がおすすめだなぁ。」
「…いつの曲ですか?」
「リリースされたのは1996年の春だよ。
初めてテレビの音楽番組でアイヴィーを観たのはこの曲だったの。」