第3章 一番星みつけた
家のドアに鍵をかけ、オレは有に向き直った。
「有、何食べたい?」
「伊豆くん、名前…」
有は少し口を尖らせてオレの方を見た。ああそうか、名字で呼ばないといけないんだな。
「悪い、桃浜」
「ううん…」
桃浜は少し歯切れ悪く返事した。
「あ、ねえ、伊豆くん見てよ。一番星」
「お、本当だな」
暗くなり始めた空に、ひとつだけ星が顔を出していた。
「一番星に願い事をすると叶う、なんて昔よく言ったよね。私は迷信なんて信じない方だったけど」
桃浜はリアリストだ。
「…でも、今日はお願い、しようかな」
小さな声でそう言うと、桃浜はオレの手をキュッと握った。
「伊豆くんと、ずっと一緒にいられますように…」
突然どうしたのかと思って、オレは桃浜を見つめた。桃浜は恥ずかしそうに眉間にシワを寄せながら、ポツリポツリと喋った。
「ゴメンね、いつもワガママ言って、伊豆くんを困らせて…。名字で呼んで、なんて、自分でもバカっぽいなとは思ってるんだよ。伊豆くんは私のこと好きって告白してくれたけど、実際付き合ってみたら、私結構めんどくさい女でしょ?掃除とか、服とか、口うるさくて。伊豆くん、幻滅してないかなあ。伊豆くんに愛想つかされたら、私、ヤダなあ…」
「桃浜」