第20章 ワンコの憂鬱

「皐月くん…どうしてこんな事するの……？」

「………」

「こんな事する皐月くん……、嫌い…っ…！」

「ッ…」

嗚咽を漏らしながらそう言う桜子さん。
告げられたその言葉を聞いた瞬間、俺は頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。

――キライ。

それは俺が一番恐れていた言葉…
そこでようやく我に返る。
俺は一体何をしているんだ…？
彼女をメチャクチャに傷付けて…取り返しのつかない事をしてしまった…

のろのろと拘束していた彼女の腕を解放する。
彼女は自由になった両手で顔を覆い、本格的に泣き出してしまった。


「桜子さん……すみません…」

「っ…」

その体に触れれば、びくりと肩が跳ねる。
彼女の体は微かに震えていた。
その様子を見て、一気に罪悪感が押し寄せる。
俺は謝っても許されない事をしたのだ。

(これでもう…桜子さんとの関係も終わり……？)

きっと彼女は許してくれない。
俺はリアンさんとの約束も破ってしまった…
"絶対に彼女を泣かせない"という約束を…

そう思った瞬間、無意識に目から大粒の涙が零れた。
ぽたぽたと落ちるそれは、今だ俺に組み敷かれている彼女の腕を濡らして…


「……、皐月くん…？」

それに気付いた彼女が、顔から手を外しこちらに視線を向けてくる。
その瞬間、彼女の濡れた瞳が大きく見開かれた。


「どうして……皐月くんが泣いてるの…？」

「……、」

自身の涙を拭った桜子さんがゆっくり体を起こす。
そして俺の頬にそっと触れてきた。


「…ねぇ……ちゃんと話を聞かせて…？」

「………」

「皐月くんが理由も無くこんな事をするなんて…私思ってないから……」

「っ…」

彼女の優しい声と温かい手…
俺はその手をぎゅっと握り、正直に全てを打ち明けた…





「え……、ちょっと待って、皐月くん…」

俺の話を聞き終えた桜子さんはひどく驚いていた。
俺にはもう愛想を尽かして、他に好きな人が出来たんだと…俺はてっきりそう思っていたのだけれど…


「何言ってるの、そんな訳ないでしょ！」

「で、でも…俺見たんです！昼間桜子さんが…俺の知らない男の人と話してるとこ…」

「なっ…」

「この間セックスを拒まれたのも…あの人が原因なんじゃないかと思って…」



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