第19章 温泉旅行
「うわぁ…、すごい……」
「…気に入ってくれた?」
「う、うん…」
後ろから抱き締めてくるリアンくんにそう答える。
今私たちは超高級旅館のスイートルームにいた。
何故そんな場所にいるのかと言えば…遡る事1週間前。
『なぁ…来週末、俺に付き合ってくれない?』
リアンくんからそんな電話が掛かってきた。
出来れば土日連休を取ってほしいと。
『…アンタと旅行したいんだけど』
「え…?」
『アンタ言ってたじゃん…紅葉見ながら温泉に入りたいって』
「……、」
そう言えば以前、そんな事を言ったような気もする。
あの時彼は私の事を「年寄りくさい」と言って、全く興味など無さそうだったのに…
(あんなちょっとした会話を覚えてくれてたんだ…)
『休み…取れそう?』
「うーん…叔父さんにお願いすれば何とかなると思うけど…」
今年も残り2ヶ月…何だかんだで有給休暇は1日も使っていないし、そろそろ消化しなければ勿体ない。
『じゃあ約束な…?詳しい事はまた連絡するから』
(あ…)
そして私は、電話を切ってからある事に気が付いた。
来週の土曜…11月11日はリアンくんの誕生日だ。
すでにプレゼントは用意してあったが、通話の最中はその事に気付かなかった。
(リアンくん…だからわざわざ私の事を誘ってくれたのかな…)
さっき気付けなかった事を申し訳なく思う。
これは絶対、叔父さんにお休み貰わなくちゃ…
そうして迎えた今日。
無事連休を貰えた私は、リアンくんと共に都心から車を2時間程走らせた"秘境"と呼ばれる温泉地へやって来たのだ(運転は勿論二階堂さんがしてくれた)。
門構えからして迫力のある老舗旅館。
きらびやかというより"荘厳"という言葉が似合う。
そんな敷居の高い旅館のスイートルーム…しかも私たちの部屋は離れにあり、周りに人の気配は全くなかった。
(1泊いくらするんだろう…)
なんて、ついつい庶民丸出しな事を考えてしまう。
けれどリアンくんの前で費用の話をするのは野暮というものだ。
(それにしてもホントにすごい…)
1泊だけなんて勿体ないくらい広い部屋。
窓ガラスを隔てた向こうには、紅葉狩りも楽しめる露天風呂。
そして間接照明が上品なベッドルーム…
その部屋を見てついドキリとしてしまった。
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