第17章 文化祭へ行こう
『今から大学を出て、桜子さんの家に向かいます』
夜の8時。
皐月くんから携帯にそうメッセージが届いた。
昼間言っていた通り、本当にこれからうちに来るらしい。
(なんか緊張してきちゃった…)
文化祭で皐月くんと一旦別れた後、再び合流した美鈴には散々からかわれた。
「どこで何をしていた」だの「顔が赤い」だの…
そして…
「皐月くんて想像してたよりずっとカッコイイし、あれはモテるわ」とも。
美鈴にまでそんな事を言われるとまた不安になってくる。
「ハァ…」
(私は一体何が不安なんだろう…)
皐月くんはあんなにも私の事を考えてくれているのに…
これではまるで皐月くんを信用していないみたいで彼に申し訳ない。
勿論そんなつもりは全くないのだけれど…
(そう言えば…)
昼間、また彼の新しい一面を垣間見た気がする。
「他人の事なんてどうでもいい」と言った時の冷たい表情。
普段穏やかな彼だけに、あんな顔もするのかと正直驚いた。
以前施設長の古林さんも言ってたっけ…
皐月くんは人当たりはいいけど他人に心を開く事はないと。
私が知っているのは、彼のほんの一部に過ぎないのかもしれない…
そんな事を考えていると、不意にインターフォンが鳴った……きっと皐月くんだ。
「こんばんは」
「い、いらっしゃい」
開けたドアの先にいたのはやはり皐月くんで。
昼間会った時とは違い彼は普段通り穏やかな笑みを浮かべていたが、妙に緊張している私はついどもってしまった。
(なんでこんなに緊張するの…?)
「平常心平常心…」と心の中で自分に言い聞かせ、彼を部屋の中へ招く。
「皐月くん、夕飯は?」
「さっき打ち上げで軽く食べてきました」
「そっか…」
そう答える彼からはふわっと石鹸のイイ香りがして…
「きゃっ…」
何の前触れもなくそっと抱き寄せられた。
「さ、皐月くん…?」
「…昼間はすみませんでした」
「…え…?」
「桜子さんを困らせるような事して…」
「……、」
「俺…桜子さんの事になるとホントに余裕が無いっていうか…周りが見えなくなってしまって…」
「皐月くん…」
顔は見えないが、きっとしょんぼりしているであろう彼の背中を抱き締める。
その温もりに、さっきまでの緊張が一気に解けた気がした。
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