第17章 文化祭へ行こう
「桜子さんの事、根掘り葉掘り聞かれるのも嫌だし…他のヤツが桜子さんに興味持つのも嫌だったから…」
「………」
皐月くんの顔は至極真剣だったが、私はすっかり拍子抜けしてしまった。
そう言ってくれるのは嬉しいけれど、それは所謂恋人の贔屓目というやつだ。
「もぅ…皐月くんは私の事買い被り過ぎ。私に興味持つ人なんていないって」
「そんな事ありません!現に、こんな大勢の来場者の中から三上が声を掛けたのだって桜子さんだった訳ですし!」
「……、」
いや、それはただの偶然だと思う…
そう返そうとしたが、彼の顔があまりにも真剣だったので私はそれ以上反論出来なかった。
「でも…そう言うなら私だって少し心配だよ?」
「…え?」
「皐月くんて大学ではあんなにモテモテなんだなぁって」
「っ…、あれは…!」
「あの模擬店だって、皐月くん目当ての女の子が多いって三上くんも言ってたし?」
「………」
少し意地悪な事を言い過ぎただろうか…急に黙ってしまった皐月くん。
伊達眼鏡の奥の瞳はひどく悲しげでチクリと胸が痛む。
冗談半分で言ったつもりだったが、彼がそこまで落ち込むとは思わなかった。
「あ、あの…皐月く…っ」
そう言い終わる前に唇を奪われる。
けれどすぐに顔を離した彼はじっと私の瞳を覗き込んできた。
「桜子さんが他の人と話すなって言うなら、俺誰とも話しません」
「…え……」
「俺には桜子さんだけだから…他の人に嫌われたって構わない」
「さ、皐月くん…」
「だから…俺の事嫌いにならないで下さい」
「っ…」
久しぶりに見た、彼の捨てられた子犬のような目…
ちょっとした軽口が、まさか彼をここまで追い詰めてしまったなんて…
「皐月くん、ごめん…」
彼の両頬に手を添えその瞳を見つめ返す。
「そんな事で皐月くんの事嫌いになんかならないよ?」
「……、」
「ほら…前にも言ったでしょ?私、結構ヤキモチ妬きだって」
「桜子さん…」
「皐月くんを他の子に取られないかって少し心配になっただけ」
皐月くんは優しいから、彼を好きになる女の子の気持ちはよく解る。
さっき彼を囲んでいた女の子の中には、本気で彼の事を想っている子だっているだろう。
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